2012年06月19日

習作:鯉精(1)


 雨のそぼ降る、水無月の夕暮れであった。

 大川へ掛かる橋には人気もなく、

 急ぎ足で西へと渡っていた男は、眼前へ立ち止まる何者かの気配を認めてふ、と足を留めた。
 差し掛けた傘の内から、色濃く濡れた小袖の裾が見えている。

続きを読む
posted by 水風抱月 at 03:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 未熟なる破片 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月18日

習作:花の乙女と騎士の弓

真黒の森の奥深く
打ち棄てられた銀の弓
王なる塔を護るが如く
月のきらめき携えて

放てばひかりは塔の内
黒の茨を照らし出す
楔の如き戒めは
王の命の盾として

続きを読む
posted by 水風抱月 at 21:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 未熟なる破片 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月10日

習作:冷たい四十雀へ

その世界は、とても素晴らしかった。
青々と茂る草木。
遠く広がる空は、どこまでも続いているように見え
そして何より、目に映る何もかもがきらきらと輝いているように見えたのだ。

あまりの美しさに、彼はその先へ進むのを躊躇った。
これは、幻ではないだろうか?

振り返り掛けた、その時だった。
茂みの向こうで動く影を、彼は見つけた。
その影は、自分と同じ姿をしていた。
同族だ。
ならば、この先は安全だ。

彼は羽ばたいた。
力強く。

一息の間に、その世界が迫る。
一息の間に――

希望に充ち満ちた瞳が眼前に迫り、見開かれ

世界は 真っ白に砕け散った。

彼は墜落した。


仰向けに倒れ、意識を失いゆく彼の瞳に映ったのは
煤けた角材の屋根だった。

新たな世界と見えたのは、磨き抜かれた硝子窓だったのだ。


冷たい秋の風が、動かない彼の熱を奪ってゆく。

青空へ向けられた小さな瞳は、いつまでも見開かれたままだった。


補足
posted by 水風抱月 at 01:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 未熟なる破片 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月29日

双子座迷宮 〜AFTER

 ふと思い出して、久しぶりに彼らの住んでいた街を訪れてみた。

 もう、10年ぶりになるだろうか。
 暫く来ない内に、街は大分様変わりしていた。
 地面そのままだった往来には敷石が並べられ、更には粗末ながら街灯まで整備されている。
 行き交う人々は相変わらず荒み、飢えた獣のようにギラギラとした目つきをしていたが、それでも身につけているものは過去のそれらよりも遥かに色鮮やかなもの。
 土壁や木造が主だった街の家々は、煉瓦造りのものが主となっている。
 彼らが栖としていたボロ屋も、やはり跡形もなく消え失せていた。

 仕方もなしに当て処もなく彷徨っていると、酒場や道具屋、雑貨屋の建ち並ぶ繁華街の片隅に『暴竜亭』と乱雑に書かれた看板があるのを見つけた。
 真昼だと言うのに、どうやら客が入っているらしい。

 ぎしぎしと軋む扉を開けると、むっとする酒の臭いが鼻を突く。
 迎えの言葉もないままに薄暗い店内を見渡せば、鋭い視線が突き刺し返してくる。

 カウンターの奥には、濁った薄赤い髪をぐしゃりとまとめた、目付きの鋭い…
 鋭すぎる、引き絞った体躯をした中年の女。
 どこかで見たことがあるような気がして、目を凝らす。

 ――と。

「入口でボサっと突っ立ってンじゃないよ、このウスノロ!」

 容赦のない罵声。
 さすがに些か衰えているものの、紛いようのない声と、相変わらずの口調。


 女のかつての名を、ジャミイと言った。
posted by 水風抱月 at 01:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | 未熟なる破片 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月08日

焦唄

 凍てつく冷気に思い出す
 遠い灼熱 茹だる日々

 塗り込められた青空の
 強き日射しと雄々しさと

 光受け止め嬉々として
 目映く輝く蒼の葉よ


 思うがほどに遠かりし
 また其がゆえに待ち遠し

 閃く季節 それが夏
posted by 水風抱月 at 00:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 未熟なる破片 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月30日

無題〜月

 気紛れな雲をくぐり抜け
 溢れ来る月の灯

 空の鏡 夜の光
 穏やかな面端は恋うひとを想わせる


 透き通った月
 見上げて微笑う


 南でまた逢おう 優しき月のひかり
 おまえに私の想い人を紹介するよ
 私と同じく 彼の人もまた君を愛するだろう
posted by 水風抱月 at 01:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | 未熟なる破片 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。