【投稿歌まとめ】
001:初
初花も散りくる浅き春宵に梅香と薫る雪白の幽
002:幸
一人居て明くるを待ちつきみ想う夜の幸福を君は知るまじ
003:細
夕暮れて泥むあたりに幼子の迷犬(まよいぬ)捜し呼ぶ声細く
004:まさか
あまさかる夷の旅路を一人来てきみに近しき風に吹かるる
005:姿
雲掛かる胸中晴らす風吹かば月の麗姿を見なましものを
006:困
きみはまた途方に暮れた顔をして困惑ばかり見せつけてゆく
007:耕
耕作の徒となりゆかん我もまた名も無き原に言の葉埋(うず)め
008:下手
上手より来たりし役者(ひと)が下手へと掃けてゆく間の人生ひとつ
009:寒
遇うたびに惑いつとけて春近し つれなきひとの三寒四温
010:駆
空知らぬ雨の綴り路遡る眸は雲を駆け抜けてゆけ
011:ゲーム
ゲームだと莫迦にするない幾万行書いたコードは時より重い
012:堅
香炊きのしろしめしたる堅州國 煙(けむ)よ黄泉路の果つるはいづこ
013:故
わたくしの夢にあなたはいつだって佇んでいます 何故、とも問わず
014:残
細波の寄せては返す溜息にひかりの残滓またたくを見る
015:とりあえず
今日もまた時の重みに耐えかねて下ろす荷寄せる とりあえずの日
016:絹
引き裂かれ散れる絹糸縒り合わせくくる御霊の天魔なる影
017:失
くれないに沈む記憶の壜詰めがわれを助くる喪失の夜
018:準備
誰も彼も骸と並ぶ準備して黄泉路を歩む肉の一片
019:層
地層より現れ出でた石を接ぎ描く竜こそ 嗚呼、fantasia!
020:幻
氷上に見えし幻 羽衣の尾をひく軌跡われに残れり
021:洗
洗い髪梳かせば黒き一条の悔恨絡め嗤う指先
022:でたらめ
でたらめに走り来た足跡にさえ人生見たり彼が我なれば
023:蜂
毒蜂の一刺しのごと君穿ち共に果てなむ夜のいづれに
024:謝
据えられし鸚鵡頭が街頭に実もなき謝辞をただ紡ぎ居り
025:ミステリー
ミステリー重ね寝(い)むべし墓標まで秘めたる花の片を愛でつつ
026:震
砕かるる 震えしひとも地も海も 星よいづれの怒りを撲たん
027:水
飢え乍ら寄せては返す水に揺る世のうたかたが夢にし見ゆる
028:説
此がもし小説ならば頁捨て悲劇の一場を忘れしものを
029:公式
切なさも愛しさもみな公式の外側にある解なき憂い
030:遅
願ひても詮無きことと知り乍ら恋し日常 ひとめあなたに
031:電
囂しき電飾よりも希なりし人の胸にも灯るあかりは
032:町
てのひらの内に息づく町がある 涙も笑顔も、きらめいて ほら
033:奇跡
己へと祈る奇跡の数多捨て夜毎願うは『君存えて』
034:掃
後悔を集めて久し掃き溜めの泥にも似たりわれの病床
035:罪
慈悲深き忘却にさえ仇しやな 夜の狭間へ埋めし罪は
036:暑
あの夏の暑さに一人絆されて少女は彼を追おうと決めた
037:ポーズ
静止画の如き窓辺にポーズしつ眸ばかりがわたしに挑む
038:抱
きみは未だ冬の腕に抱かれて笑み聲咲かず花開くとも
039:庭
酒汲みて明くる机上の庭雀 朝(あした)の歌を書き留めもせず
040:伝
伝え聞く地の凄惨に息溢る 唯生きていた それだけなのに
041:さっぱり
倖せが僕にはさっぱり見えなくてそれでも君の恋になりたい
042:至
此の國に産まれ生き来し至福あり浴みす湯船に揺らる一時
043:寿
祖母の手を握れば月日が皺と笑む 寿の字がわたしを包む
044:護
とこしえに匂い誇れよ奥羽路の護国の桜宴と開かば
045:幼稚
町失せて月夜は照らす幼稚子の笑みにも隠る星の滴を
046:奏
天津風腕も無くて奏上の鐘のみ響く 海悖りくる
047:態
言の葉の千姿万態選り分けて花とも実とも吾が霊とも
048:束
剃刀のわれを裂かなむやさしさを覚束無くも恋ひてあらなむ
049:方法
暁闇が証明方法縁取れる髪ひとすじの地平の在処
050:酒
ものみなは吾が朋なりし誘酔ひの月にも満つる酒精の琥珀
051:漕
千年の重きを漕げど舟尽きず哀しからずや岸辺のカロン
052:芯
滔々と灯芯満たし仄青く震える命 何にか怯え
053:なう
朝霞八重の桜へ絆されて夜の名残の魂をあざなう
054:丼
未だ帰ぬと仄明けき窓眺めやる他人丼静かに冷えて
055:虚
漫ろなる吾にも今し虚無来る 空の青さに打ち穿たれて
056:摘
掻き抱きて髪さぐりつつ君が手が我が憂鬱を摘み取りし春
057:ライバル
未だ見ぬ時へ宿世をライバルに据えて通いし夜毎の現
058:帆
胸に凪 櫂の手も無く帆掛船 行方知れずのこころを乗せて
059:騒
君隠る胸の騒ぎを打ち棄てて夜毎聴きなむ吾のみの音
060:直
筆芯へ蟠る血の途惑いを引き延ばしたる直立不動
061:有無
月は唯遙か頭上へ懸かりおり いのちの有無を問うこともなく
062:墓
言の葉は我が墓であれ揺り籠の鎖も揺らす夜の頃から
063:丈
空知らぬ雨に腐果つ茉莉花の香拭い得ぬ遠き一丈
064:おやつ
おやつなら食べてきました だからこの甘いことばはあなたにあげる
065:羽
陽炎に夏の影めく黒揚羽 四輪駆動の気配が殺し
066:豚
喰らいつつ故意に忘れて過ごし居る 生き来し豚の肉になる日を
067:励
励ましの声ばかりなる日を倦みて一つ無音の支援を残し
068:コットン
エナメルの有刺鉄線摘み取りしコットンパフに少女が芽吹く
069:箸
火箸もて掻き混ぜる炭灰白く荼毘に付されし人のごとくに
070:介
わたくしときみの間に横たわる 音 風 ひかり 空の介在
071:謡
文字のみに今は遺りしことばにも流れて居ようか謡い手の血は
072:汚
いろつきの汚れを窪へ塗り重ね膨らんでゆく僕等のいのち
073:自然
誰もみな産まれ落ちたる塵界に自然神話の嘗てを想う
074:刃
泥濘の今世往く我が肉体に霊(たま)と埋めし刃は見得ず
075:朱
華も亡く光露と散りしあの夏を燃やし尽くせよ朱雀の翼
076:ツリー
備えども憂虞ばかりが重ねゆく解捉え得ぬツリー構造
077:狂
其はまるで恋にも似たり吾が胸の触れ得ぬ箇所へ点る狂気は
078:卵
孰れかは孵るのだろうかこの惑星〔ほし〕は生を宿せし卵とも似て
079:雑
千年も生き来しほどの雑事へと埋もる指先歌にて拭う
080:結婚
吾が身には遠かりしその二文字は死神となら遂げし『結婚』
081:配
鏤めし時の道筋絡めつつ配電盤を焦がし来る明日
082:万
遺されし唯一文字に口説かれて万有引力この身に余る
083:溝
都会〔まち〕行きの車窓より亦た駅越せば空との溝が深まりゆきて
084:総
君が背の残り香めいて寄る風を総身へ受けて埠頭へ立てり
085:フルーツ
湯上がりのフルーツ牛乳懐かしき昭和の影が未だ生きている
086:貴
高貴なる気儘と名付け愛すべき ヴィオロンの鳴 猫の語り部
087:閉
夜の風を閉じ込めても居る窓辺にて生活空間静かに腐る
088:湧
生くるほど近くなりなむ根の国へ亦た死者の湧くけむりを鎮め
089:成
言霊を如何に磨けど敵うまじ天が詠ませし偶成の作
090:そもそも
詠い来て評に浮かれど沈めどもそもそも誰の為でもなくて
091:債
一刻と留まらぬ日がまた過ぎて債鬼とも似る秒針の鳴
092:念
初蝉に滾る命脈念念と燃え上がりゆく 夏遠からじ
093:迫
君宛に綴り損ねた空白が圧迫してゆく一瓶の春
094:裂
渡し舟裂きゆくほどに紅の血潮散りたり落陽の岸
095:遠慮
忍び泣く霧の湖畔に影殺し今宵は月も遠慮がちなる
096:取
明け遠き閨に一条蜘蛛の来てわれの小さき死を看取り秘む
097:毎
深海の底ひなき路路毎に亦溺れゆくしびと〔詩人〕の聲が
098:味
乞う程に天は恵みを与えずと知りつ嫌味を噛み締めて在る
099:惑
惑い路の果てに星無き僕の為めコーヒーカップの宇宙はありき
100:完
歩み来た道筋に吹く風をもて描きし幕は未完のままに
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